砕ける月

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  第 36 章  

 トモミさんのアルファロメオで福岡ドームの前まで送ってもらい、アタシは恐る恐る九州医療センターの敷地に足を踏み入れた。
 持ち主の道連れで無断外泊の憂き目をみたバンディットには、無残にも”無断駐車は厳禁です!!”という大きな貼り紙が貼られていた。
 アタシは駐輪場に近づくと、建物の方から誰も見ていないことを確認してから素早くその紙を剥ぎ取った。ナンバーは控えられているだろうけどわざわざ持ち主を調べてまでお咎めはないだろう。
 何食わぬ顔で(でも、内心はドキドキしながら)バイクを駐輪場から出して、エンジンをスタートさせた。心の中で病院の建物に向かってゴメンナサイと唱えてから、アタシは百道のよかトピア通りに滑り出した。

 天神まで戻ってイムズの中にあるストーンスパでじっくりと汗を流した。女性専用なのにイメージキャラクターがホークスの選手というのはちょっと違和感があるけど、間接照明を多用した落ち着いた造りの店内はなかなか心地良かった。
 スタッフの女性に案内されて浴室に入った。
 ムッとするような空気に早くも吹き出す汗を感じながら、アタシは岩盤に大判のタオルを敷いてその上に寝転がった。
 トモミさんが持っていた資料は外部流出厳禁の代物とのことで、コピーはもらえなかった。
 どうしてそんなものがトモミさんの手元にあるのか、というアタシのもっともな疑問は、トモミさんの曖昧な微笑でやり過ごされてしまっていた。
 アタシはじっくり読み返してアタマに叩き込んだ内容を、もう一度反芻するように思い返した。
 大沢の人物像とそのバックグラウンドは可哀そうだとは思うけど、とりあえずはどうでもよかった。
 それよりも気になったのは、やはり最後の部分――FBRと熊谷幹夫の関係だった。もし両者の繋がりが本当ならば、熊谷の事務所の前でアタシが襲われたのは偶然ではなかったことになる。
 熊谷がアタシに話したことにはずいぶんと不可解なことが多い。どこまでが本当のことでどこからが嘘なのか。あるいは徹頭徹尾、作り話なのか――由真の実の母親、徳永佳織に関することも。
 しかし、アタシにそんな作り話をしてみせた目的も分からないし、大沢と古瀬にアタシを襲わせた理由も分からない。単に揺さぶりをかけるつもりだったのか。それとも――。
 浴室内のオレンジの灯りに照らされた天井をじっと見詰めたまま、アタシは考えを巡らせた。
 ふと、これまでボンヤリとしか見えていなかった映像が、唐突にピントがあったようにクリアになるのを感じた。
「――そうか!!」
 アタシは思わず大声を出した。じわじわ浸透してくる熱気のせいで浜辺に打ち上げられたトドのように喘いでいた隣のおばさんが目を丸くしてアタシのほうを見た。
 おばさんに謝ってからアタシは岩盤から身体を起こした。
 その場を離れて休憩スペースに行った。その場にいたスタッフの女性から盛んに水を飲むように勧められたので、アタシはもう一口、水を飲んだ。
 由真はファミレスの駐車場で、高橋はおそらくその近くで脅迫者――大沢たちだと思うけど、まだ断定は出来ないのでこう呼んでおこう――に身柄を拘束された。しかしその時、二人は電子カルテのデータと村松医師の死体写真の入ったMOディスクを持っていなかった。高橋の手によってアタシへ郵送されていたからだ。
 高橋を痛めつけたのは誰に預けたのか、口を割らせるのが目的だったのだろう。ところが脅迫者は高橋の逃走を許してしまい、彼は警察の保護下に入ってしまう。
 脅迫者にとっては気が気じゃない状況だったはずだ。彼らにとっては由真の存在だけが、高橋にすべてを警察にぶちまけるのを思い止まらせる拠り所だったからだ。
 彼らとしては高橋が意識を取り戻す前にすべてのカタをつけたかっただろう。少なくともディスクの行方だけは掴んでおきたかったはずだ。
 普通に考えて、本人たちがディスクを持ってければ誰かに預けたと考えるのが順当だ。しかし、モノがモノだけに誰にでもというわけにはいかない。おそらくは友人か信頼の置ける近しい人物。脅迫者もそう考えただろう。
 高橋の交友関係は知らないのでよく分からないけど、由真にとってそういうことを頼める相手は限られてくる。アタシはそのリストのかなり上のほうにいるはずだ。
 ついでに言えば(どうやってか知らないけど)熊谷は高橋の入院先を把握していた。そしてアタシはそこにのこのこと顔を出している。彼らがアタシがディスクを預かった人物として狙いを定めたのは当然のことだった。
 では何故、アタシは高橋のように実力行使されなかったのか。
 おそらくは村上の存在だ。彼らはこの件に警察が介入することを何よりも恐れている。熊谷はアタシが佐伯真司の娘で(現実はともかく)村上刑事と近しい関係にあることを知っている。アタシの祖父が元市議会議員であることを知っていたくらいだ。その程度の調べはついていたはずだ。
 高橋だけなら彼が喋らなければ警察は単なる暴行事件としてしか、この件を扱わないだろう。しかし高橋の知人であるアタシの身にまで累が及んだら、警察も重い腰を上げざるを得なくなる。ましてや、そこまでしたのにディスクを回収できなかったら目も当てられない。事実、ディスクは工藤師範代のところに預けてあるのでアタシの手元にはない。
 そう考えると、熊谷が延々と事件のことを(どこまでが作り話なのかはともかく)アタシに聞かせたのも頷ける。
 おそらく熊谷はアタシに探りを入れていたのだ。大沢と古瀬に襲わせたのもアタシを脅かしておいて、自分から関わり合いになるのを投げ出すように仕向けるつもりだったのかもしれない。
 アタシは一昨夜の長いやりとりを思い返した。
 熊谷が確証を得たかどうかは分からない。アタシがディスクを持っていることくらいは悟られたかもしれない。それでも、それを何処に隠しているのか、アタシがどこまで事実関係を把握しているのかまでは分からなかったはずだ。だからこそアタシは今、こうしていられる。
 分からないのは熊谷の目的だ。
 由真のブログによれば、徳永祐輔の医療事故については隠蔽する方針の両親(というか母親)と祐輔の対立の図式があるだけで、そこには熊谷が何かをしていたような感じはない。事実、これが明らかになったところで敬聖会と徳永家がダメージを受けるだけで、それは院長の友人として敬聖会に入り込んでいる熊谷にとっても嬉しい話ではないはずだ。
 そして、それは徳永麻子の犯した村松俊二殺害についても言えることだった。おまけにこちらに至っては熊谷は隠蔽工作の現場に居合わせている。積極的にではないにしても共犯関係を疑われても仕方がない立場だ。
 他にあるとすれば古瀬や大沢を恐喝者に仕立てて、これを機会に敬聖会からカネを脅し取ろうと考えた可能性だけれど、これは今のところ何とも言えなかった。恐喝者の存在自体がアタシを騙すためのウソだった可能性もある。現に徳永祐輔は由真とは別口のもう一つの脅迫者の存在を知らなかった。
 一瞬、アタシがディスクを持っていることを明かして、熊谷を真っ正面から問い詰めてみようかという考えが浮かんだ。
 でも、それはあまり良い考えではないような気がして、アタシはすぐにその考えを追い払った。相手はアタシとは比べ物にならないほど経験を積んだ海千山千の悪党だ。アタシごときが口で勝負を挑んで勝てるような相手ではない。それにこのディスクはアタシにとって唯一にして最大の切り札だった。そう簡単にカードを切るべきではなかった。
 熊谷の話の裏を取る方法がないかを考えた。
 一人だけ適任の人物がいた。すべての始まりを作った張本人――徳永祐輔。
 アタシは浴室に敷いていた自分のタオルを取ってロッカールームに移動した。急いでシャワーを浴びて買ってきていた衣服に着替えた。本来やるべき入浴と休憩の三セットのうち一回しか終わっていなかったけど、悠長に汗を流している気分じゃなかった。
 昨夜のアルコールが流れ出すには充分だったことにしてアタシはスパを後にした。

 徳永祐輔のオフィスは敬聖会福岡中央病院の本館最上階の角部屋だった。
 病院は室見川の向こう側、西区愛宕の高台にあった。徳永家は戦前から続く医師の家系と聞いていたので、さぞお化け屋敷のような建築物を想像していたのだけれど、まだ建って間もない真新しい建物が並んでいた。
 入口脇に掲げられた病院の沿革には”平成十五年に移転――”と書いてあったので、おそらくそれ以前は他のどこかにあったのだろう。
 窓からは院内の様子が見て取れた。広々とした敷地に病棟が整然と並んでいて、大半が渡り廊下で繋がっている。どれもハーフミラーを多用した箱型の外観で、病院というよりも精密機械の工場のように見えた。
「――いや、まさかここを訪ねてくるとは思わなかったな」
 祐輔は白衣の袖を肘の辺りまで捲り上げて、ポケットに手を突っ込んで立っていた。
 白衣の前ははだけていて、意外にガッチリした胸板がタイトなボーダーのポロシャツに浮かび上がっている。胸元にはシルバーのアクセサリが光っている。
 アタシが来ることは事前に電話で連絡してあった。
 日曜だからと百道のマンションに電話したのだけれど、出なかったので病院のほうにかけたのだ。受付の女性との少しばかり険悪なやりとりの後、アタシは本人に”今から行きますから”と一方的に通告して電話を切っていた。
 アタシは部屋の真ん中にある応接セットに腰を下ろしていた。目の前にはプラスチックのカップに入ったコーヒーが置いてあった。
 持って来てくれたメガネ美人の女性の目は仇を見るように険しかった。ひょっとしたら電話に出たのは彼女だったのかもしれない。
「日曜日なのに、お仕事なんですね」
「ERの人手が足りないんだ。だから、ひょっとしたら話の途中でも失礼しなくちゃならないかもしれない。あ、ERって分かるかな」
 それがエマージェンシー・ルーム(救急救命室)の略語であることくらいアタシだって知っている。祖母が意外と海外モノのテレビドラマが好きでよく付き合わされるのだ。ジョージ・クルーニーと比べるとノア・ワイリーはひ弱な感じが今ひとつ趣味じゃないのだけれど。
「ドラマで見たことはありますよ」
「なるほどね。でも、現実はあんなにドラマチックじゃないし、そのくせに比べ物にならないくらいシビアだよ。正直、僕みたいなヤブ医者がいるところじゃないんだけどな」
 祐輔は自虐的な笑みを浮かべた。何と言っていいのか分からなかったので、何も言わなかった。
「ところで、聞きたいことがあるって話だったけど」
 アタシは一呼吸おいてから言った。
「ええ。――あなたが起こした医療事故に始まって由真が家を飛び出すまでの間、何が起こったのか、聞かせてもらいたいんです」
 しばらくの沈黙の後、祐輔は自分のデスクの縁に尻を載せてポケットから取り出したタバコに火をつけた。窓を背にする形になったせいでどんな表情をしているのかはよく分からなかった。
「それについては確か、熊谷さんから聞いたんじゃなかったかな?」
 声は思っていたよりは穏やかだったけど、苦痛の響きは隠せなかった。
「聞きました。あくまで熊谷さんの話として、ですけどね」
「よく意味が分からないな。あの人が嘘を言ったとでも?」
「嘘かどうかは分かりません。アタシには何が事実で何がそうでないかなんて分かりませんから。ただ、確かめもせずに信じられるほどあの人のことを知らないので」
「なるほどね」
 祐輔はあんまり吸っていないタバコをデスクの灰皿で揉み消して、尻を上げた。
「コーヒーのお替りは?」
「いえ、結構です。どうやらアタシは招かれざる客みたいですから」
「えっ? ああ、さっきの彼女か。電話で一悶着あったんだって?」
「だって、徳永先生に何のご用件ですかってしつこいんですよ。言えるわけないじゃないですか、家出した徳永先生の妹さんを捜してる者ですなんて。だから、どうしてアンタに言わなきゃいけないんだって言ったら……」
「電話を切っちゃったんだね、彼女」
「ガチャ切りですよ。ホント、アタマにくる。殴り込みに来ようかと思いましたよ」
「良かった、すぐに電話をかけ直してくれて」
 祐輔は少しおどけた調子で言った。二度目の電話では彼女は何も言わずに祐輔に繋いでくれていた。
「まあ、アタシの言い方も悪かったんですけどね」
「気を悪くさせてすまなかったね。実は彼女、僕の、その――恋人なんだ」
 アタシは驚きを何とか押し隠した。
「そうなんですか?」
「僕の様子がおかしいんで、心配してくれているんだ。だから――」
「あんな刺々しい態度だったんですね」
「そういうこと」
「お二人が付き合ってることは、周りは知ってるんですか?」
 祐輔はとんでもない、というふうに首を振った。
「まさか。病院内に知ってる人はいないはずだよ。知っているのは彼女の友だちが何人かと、あとは由真と、今、話したから君だけだ」
 アタシは意地悪く笑った。
「お母様には早く言ったほうがいいと思いますけど?」
「それが言えれば苦労はしないよ。ウチのお袋、見ただろ?」
「どうしてオトコって、こういうときには意気地がないんでしょうね」
 彼は肩を竦めてアタシの向かいに腰を下ろした。
 祐輔は何度か言葉を選ぶように躊躇ってから、口を開いた。
「君が言ったこと――考えてみたんだ」
「何をです?」
「すべてを明らかにすることさ。最初からそうするべきだったのに、僕も両親も事実から目を背けた。その結果が今のこの醜い現実だよ。事件を起こした僕たちだけならともかく、由真まで巻き添えにしてしまった」
 祐輔は再びタバコに火をつけた。ため息と一緒に白い煙を吐き出した。
「お袋はあの日、由真を殴った。今まで育ててもらった恩を仇で返す気かって。でも由真は一歩も引かなかった。逆に言い返したよ。このままずっと罪の意識に囚われたままで生きていくつもりなのかって」
「そのつもりなんですか?」
「正直に言えば、迷ってる。――いや、自分の身をかばおうとしてるわけじゃないんだ」
「……意味がよくわからないんですけど」
「罪を償うっていうのは口で言うのは簡単だけど、実際はそんな簡単なことじゃない。もしも僕と両親が警察に自首すれば、敬聖会は大きなダメージを受ける。院長の息子のミスを他人になすりつけた挙句にその男を殺し、おまけに医師の職権を悪用してその殺人すら隠蔽したんだからね。病院が受けている様々な認定も取り消されるだろうし、あらぬ噂も立てられるだろうし。病院の運営は残ったスタッフがやってくれるとしても、失われた信用は到底取り返せないだろうね。一生懸命働いてくれているスタッフには計り知れない迷惑をかけることになる。たとえ自分がどれだけ罪の意識に苛まれたとしても、彼らを巻き添えにするわけにはいかない」
「それはそうかもしれないけど――」
 祐輔はソファの背もたれに身体を預けて天井を見やった。くわえたタバコからは細い煙が立ち上っている。彼は身体を起こすと灰皿でタバコを押し潰した。
「でもね、それは結局は言い訳でしかないんだ。そうやって誰かのためにって言い訳をして、自分の身を守ろうとしているだけなんだ。それにやっと気づいた。由真のおかげでね。でも――」
「……でも、何です?」
「でも、だからこそ、由真が脅迫という形で僕らに復讐をしようとしていることが、何というのか――切ないし、申し訳なさでいっぱいなんだ。由真はあんなに僕のことを思ってくれたのに。いくら追い詰められていたからと言っても、僕は由真に取り返しのつかない傷を負わせてしまった。もし、僕らを苦しめることで彼女の気が少しでも晴れるんなら、それでもいい――そうも思うんだ」
「そういう考え方もあるんですね」
 アタシは祐輔の顔を見詰めた。嘘をついているようには見えなかった。
「由真は五千万円を要求しているんでしたよね」
「そうだ。熊谷さんはカネが目当てじゃないって言ってたけど」
「脅迫状は熊谷さん宛てに送られてきたって聞いてますけど、内容はご存知なんですよね?」
「ああ。由真がしゃべってる動画も見せてもらったよ。お袋は”これがあの子の本性だ”って荒れ狂ったし、親父は脱力して何も言えなかったな」
「すいません。その動画、見ることって出来ますか?」
「えっ? ああ。僕のノートに残ってるけど……」
 祐輔は自分のデスクからノートパソコンを持ってきた。コードを繋いで電源を入れた。しばらくすると祐輔はノートをアタシのほうに向けた。
「あれから何度か見て、あんまりつらくて消そうと思ったんだけどね」
 アタシは祐輔の言うとおりに、キーボードの下についているタッチパッド(というんだそうだ)を操作した。画面の真ん中に現れた小さなスクリーンに、由真の姿が映し出された。

『――叔父さん、いきなりこんなメールを送ってごめんなさい。叔父さんのところからコレを持ち出したのはあたしよ』
 由真は顔の前にMOディスクを掲げて見せた。
『何が入っているかは、判るよね。絶対に表沙汰には出来ない三つのファイル。――五千万円でいいわ。あと、アタシを捜さないって約束して欲しい。こんなコトしたんだから、もうウチには戻れないし。お金の受け渡しについては、また連絡するわ。じゃ、またね』

 熊谷の事務所で見たものと同じ映像だった。ただ、アタシはあのときには気づかなかったことに気づいていた。
「これって、一言もご両親とか、あなたのことについて触れてないですよね?」
「確かにね。でも、由真が持ってるMOディスクに入ってるのは――」
「あなたの医療ミスの証拠の電子カルテが二通と、お母様が殺した医者の死体写真」
 祐輔は苦いものを飲み込んだように顔を歪めた。
「そうだ。でも、それで脅せる相手は僕と両親しかいないんじゃないかな」
「だったら何故、由真は直接、自宅に脅迫文を送らなかったんでしょう」
「ディスクは熊谷さんのところから盗んだから、じゃないか。それにいくら由真でも、そんなに理詰めで行動しているわけじゃないだろうし」
「――すいません、このパソコン、インターネットに繋がってますか?」
「ああ、無線LANがついてるから。でも、何を見る気だい?」
 アタシはポケットからメモ用紙を取り出した。ここに来る前にウメノモータースに電話をかけたときに(梅野のケイタイは未だに不通だった)ついでにお兄さんにベッド脇のテーブルに残してきた梅野のメモを読み上げてもらったものだった。
 祐輔に由真のブログのアドレスを渡した。アタシが自分で打っていたら、祐輔がもしERに呼ばれて帰ってきても終わっていないことは間違いなかった。
 怪訝な顔の祐輔は、それが由真のブログであることが分かると押し黙ってそれを読み始めた。アタシはその間、立ち上がって窓から外を眺めた。
 アタシのように不慣れじゃないせいか、読み終わるのにはそれほど時間はかからなかった。
「……どういうことなんだ」
「由真は脅迫者じゃない、ということじゃないんですか。少なくともあなたにとっては」
「じゃあ、この動画メールは一体、何なんだ?」
「それが知りたいんですけどね。アタシも」
 アタシはソファに戻った。祐輔はノートの画面を食い入るように見詰めていた。
「話を聞かせてもらえますか?」
「分かった。それが由真を探し出すのに役に立つのなら」







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