Left Alone

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  第 24 章 

 那珂川町は背振山脈の麓、福岡市の西南に広がる緑豊かなのどかなベッドタウンだ。
 町名が中洲が浮かぶ川と同じなのは、この町に源流があるからだと誰かに聞いたことがある。ただ、川の後に町の名前を付けるというのもヘンな話で、本当のところはよく分からない。アタシの中では背振を山越えしてお隣の佐賀県に行くときの通過点という認識で、覚えている限りでは三回しか来たことがない。一回は子供のころに佐賀市に住んでいた遠縁の家を訪ねたとき。一回は元彼とのドライブで、毎年秋に佐賀平野で開催されるインターナショナル・バルーンフェスタを見に行ったときだ。どちらもこの町はただ通り過ぎただけだから、来たことにしていいか疑問だが。
 あとの一回は高校二年の春先に由真と二人でJRの博多南線に乗ったときだ。
 この路線は那珂川町にある新幹線車両基地までの回送列車を便宜的に使用していて、「トリビアの泉」でも”二九〇円で新幹線に乗れる区間がある”と紹介されたことがある。福岡に住んでいれば誰でも知っていることで珍しくもなんともないのだが、由真がいつもの思いつきで「乗ってみたい!!」と言い出して、わざわざそれだけのために往復したのだ。帰りの列車までの間に駅の周りをウロウロしただけなので、これも来たことにしていいかはちょっと疑問だ。
 ノンさんとそのダンナさんがやっているという「ビストロおおいし」は、駅前のバスターミナルとマンションに囲まれたロータリーから少し歩いたビルの一階にあった。町の小さな洋食屋さんといった佇まいで、木枠の格子が入った大きな窓からはこじんまりとした店内が見て取れる。パステルグリーンの模様が入ったテーブルクロスや手作りっぽいメニュースタンドなどが店内をアットホームな雰囲気に見せていた。
 ここへ来ることは移動の車中で留美さんから連絡を入れてあった。久しぶりの電話だったらしく用件にたどり着くのに少し(いや、かなり……)時間がかかったが、ランチタイムの後であれば大丈夫だと返事をもらっていた。
 ドアのカウベルの音と共に、奥のキッチンからモスグリーンのプリントドレスにエプロン姿の女性が顔を出した。
「留美、久しぶり〜!!」
 元レディースだというのが信じられない、いわゆるアニメ声と呼ばれる甘ったるい声にアタシはこけそうになった。懐っこそうなあどけない顔立ちとも相まって留美さんと同い年には見えない。全体にふっくらした体つきだが、お腹が出ているのは他の理由のようだった。
「久しぶり。いつ以来だっけ?」
「ミツコの結婚式のときだから、半年ぶりかな。そうそう、今度、アッコが結婚するって聞いたんだけど知ってる?」
「あ、それ知らない」
 二人がひとしきり旧交を温めている間、アタシは黒板を使ったメニューボードを眺めることにした。下のほうに”ランチタイム 11:00〜14:30”とある。本日の日替わりランチは”煮込みハンバーグと茸のリゾットのセット”だった。他のメニューもしゃれた”何々のナントカ風”ではなくポピュラーでボリュームのありそうなものが多い。価格も割と良心的で、大学の近くか街中にあれば贔屓にしたくなるような店だった。
 横のコルクボードにはお客さんの写真などが貼ってあった。若夫婦がやっているせいか、客層も若そうだ。その中に今より少し痩せているノンさんとコック帽をかぶった浅黒い顔の男性が写ったものがある。留美さんが言っていた”中洲で遊んでいたクチ”のダンナさんだろう。どこかで見たような気がしなくもないが、街に行けばいくらでもいるタイプではある。
 しかし、そのやんちゃそうな眼差しには記憶にひっかかるものがあった。
「――で、そっちの彼女が?」
 唐突に呼びかけられて、思わず「はいっ?」と聞き返した。
「そう、彼女が榊原真奈ちゃん。あたしの事務所の後輩」
「ってことは彼女もモデルさんなんだ。だよね、そんだけ背が高かったら」
「別に身長で選んでるわけじゃないんだけど。真奈ちゃん、彼女が大石紀子。あたしの悪友」
「はじめまして。よろしくお願いします」
 ペコリと頭を下げた。ノンさんは目を細めて「こっちこそ、よろしくね」と言った。アタシたちを店の一番奥のテーブルに案内して、アタシと留美さんにはコーヒーを、自分にはミルクを注いで戻ってきた。
「あ、美味しい」
 コーヒーを一口すすって、思わず呟いた。
「でしょ。それ、吉野ヶ里の近くの自家焙煎のお店から仕入れてるの。わざわざ山越えして買いに行くのよ。ホントはあたしも飲みたいんだけどね」
「コーヒーくらいだったらいいんじゃないの?」
 留美さんは言った。さっきから口寂しそうにしている。妊婦が目の前にいてタバコが吸えないからだろう。
「まあね。でも、せっかくの授かりものだし、用心してし過ぎることはないかなって」
「ま、そりゃそうだね」
 一瞬、留美さんの目に陰がよぎったような気がした。それでなくても、彼女は自分の身体を痛めつけ続けてきたのだ。
「えっと、留美から聞いたんだけど、ジュンのことを知りたいんだって?」
 ノンさんは言った。
「はい。その……すいません、昔のことを蒸し返すような真似して」
「気にしないで。で、どこから話そうか?」
「渡利のグループっていうのが具体的にどんな連中だったのか、何にも分からないんです。よかったらその辺から」
「いいよ。と言っても、知ってることの半分以上は聞いた話だけどね」
 喉を湿らせるように、ノンさんはミルクを一口飲んだ。カップを両手で覆って口に運ぶしぐさがよく似合っている。由真もよくこれをやるが、アタシには絶対に似合わない。
「あたしがジュン――渡利純也のことを知ったのは、学校をクビになって、中洲のスナックで年ごまかして働き始めたころだから、十七歳の冬のことかな」
 ノンさんは言った。四年前のことだ。
「まあ、その前に留美はジュンのこと知ってたんだけど、あたしはその頃はODで入院してたからね。あたしが会ったときには、もう立派な売人だったね」
「知り合ったきっかけは何だったんですか?」
「ありがちな話だけど、性懲りもなくってヤツ。クスリって一度やっちゃうと、そう簡単にはやめられないんだよね。ふわあっとしたいい気持ちになるし、やなこと忘れられるし。あれに比べたらお酒なんか子供だましだよね。――やだな、今はちゃんと手を切ってるってば!!」
 見ると、留美さんの視線がかなり険しくなっていた。
 ノンさんが場を取り成すように笑って手のひらをヒラヒラさせると、留美さんはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。ノンさんはアタシに同意を求めるように顔をしかめた。
「ねえ、昔の話だって言ってるのにさ。しかも、自分が話せって言ったんじゃない」
「……それでもやなの。あんたがクスリのこと、そんなふうに言うの」
「はいはい、ごめんなさいね。――あ、終わった?」
 最後の一言はキッチンのほうから聞こえた声に答えたものだった。「終わったよ」という声と共に、コック帽と襟と裾が黒い折り返しになったコックコート、黒いエプロンというしゃれた格好の男性が現れた。
 写真よりは落ち着いているようだが、それでも二十代半ばにしか見えない。下積みの長さと腕前が必ずしも一致しないとはいっても、この若さで店を持つのはいろんな意味で冒険だったはずだ。
「紹介するね。ウチのダンナ」
「どうも」
 ダンナさんは帽子を脱ぎながら言った。しかし、彼はアタシを見ると不意にニッコリと笑った。その目にはやはり見覚えがあった。
「……どこかでお会いしましたっけ?」
「ああ、コウジは元気してる?」
 アタシは椅子から滑り落ちそうになった。また元彼の関係者か。
 元彼は異様に交友関係が広い男で、ちょっと天神や親不孝通り、大名、警固、その他で何処でも歩いているとあちこちで親しげに声をかけられていた。ボニー・アンド・クライドのシュンもそうだが、一緒にいたアタシのことを覚えている人間も少なくない。留美さんとのやり取りじゃないが世の中は何故にこんなに狭いのだろう。
「うっそ、真奈ちゃんってコウジの彼女だったの!?」
 留美さんは素っ頓狂な声を上げた。
「……ええ、まあ。っていうか、留美さん、彼のことをご存知なんですか?」
「ご存知も何も、あたしらの世代じゃ有名人だもん。ねえ?」
 同意を求められたノンさんも大きくうなづいていた。考えてみれば元彼はアタシの二つ上、つまり留美さんたちと同い年だ。知っていても不思議はない。
 それからしばらく、留美さんの質問攻めに遭わされた。今さら隠すようなことでもないので訊かれたことには正直に答えた。とりあえずハッキリ主張しておいたのは、アタシと付き合いだしたときには彼は引退していたことと、アタシ自身は決してヤンキーではなかったことだ。後者を信じてもらえたかどうかは甚だ怪しかったが。
「えーっと、どこまで話したっけ?」
 話が一段落するとノンさんが言った。アタシの身上調査が本題ではないことを思い出してくれたようだ
「再会したときには渡利が売人だったってところまでですね。だったら、当時の渡利のグループがどんな感じだったか、ご存知ですか?」
「メンバーがどうかってこと? そうね、あたしは詳しいことはわかんないけど」
 ノンさんは問いかけるような目を隣のダンナさんに向けた。いきなり回ってきたお鉢に、ダンナさんは小さく咳払いして口を開いた。
「実はあいつら、そんなに人数がいたわけじゃないんだよな。まず、乗っ取りの前からつるんでたボディガードみたいなのが二人。あの双子、名前はなんて言ったっけな」
「――カズナリとヤスユキ。苗字は知らない。双子って言っても二卵性だから全然似てなかったけど」
 留美さんがボソリと答えた。
「知ってるんですか?」
「ノンのことで街で訊き回ってたときに会ったことがあるの。キックボクシングやってて腕に自信があるんだかなんだか知らないけど、あたしのこと、すっごい見下した目で見やがってさ」
 当時のことを思い出したのか、留美さんの言葉遣いが変わっていた。ノンさんは口許に小さな苦笑を浮かべている。
「他にはどんな?」
「シノハラっていうバーテンダー崩れと、モリヤっていうホスト崩れ。こいつらはジュンより年上だったんだけど、クスリ欲しさに仲間ヅラしてたみたいだ。ジュンがクルマ持ってなかった――っていうか免許持ってなかったから、運転手みたいなこともしてた。あとはクスリを配達するのが二、三人いたのかな。女の子が何人かいたけど、その子らは商売には関わってなかったはずだ」
「そんなもんなんですか」
 和津実の話で、アタシは渡利の周囲にはもっと大勢の人間がいたような気がしていた。
「何ていうのかな、ジュンはクスリを仕入れて卸す元締めみたいなもんで、直接クスリを売ってたわけじゃないからな。あんまり大っぴらにやるもんでもないし、表向きはこじんまりやってたみたいだ」
 ダンナさんは渡利たちがドラッグを捌いていた図式を説明してくれた。
 アタシなどは一括りに”売人”と呼んでしまうが(”プッシャー”というよく聞く俗称は福岡では一般的ではないらしい)、渡利たちは末端の客を相手にしていたわけじゃなく、クラブだとかゲームセンターなんかにいる連中にクスリを卸していたのだそうだ。そいつらは自分で使うこともあれば、更に誰かに転売していたりもしたというわけだ。そうした連中と渡利たちの間はインターネットなどを介して直接のやりとりをしないようになっていて、一人が捕まると数珠繋ぎに検挙されるというこの手の事件にもかかわらず、なかなか警察には尻尾をつかませなかったらしい。
「ジュンのグループっていうのは、そもそもはカバシマって男のグループを乗っ取ったんだよね」
 ノンさんが言った。
「カバシマ?」
「椛島博巳っていうんだけどな」
 ダンナさんが後を引き継いだ。
「半分ヤクザみたいなハンパ者で、そいつが何か他のことでヘタ打って福岡を離れることになったんだ。そのとき、ホントはナンバー・ツーだったヤツに任せるはずだったのが、そいつが誰かのタレ込みでパクられて。で、そこにジュンがしゃしゃり出てきて、まんまとボスの座に居座っちゃったってわけさ」
「しゃしゃり出てって……。渡利にそんな力があったんですか?」
「そこら辺の詳しいことはわかんないけど。ただ、ナンバー・ツーのことを警察にタレ込んだのがジュンなのは間違いないって話だ。って言うか、ジュンにはヘンな噂があってな」
「ヘンな噂?」
「そう。実はジュンは警察の人間に顔が利くんじゃないかって」
 アタシだけではなく留美さんやノンさんにも意外なことのようだった。一瞬、その場に戸惑いのような沈黙が立ち込めた。
「……それ、どういう意味ですか?」
「ジュンたちと他のグループが揉めたことが何回かあってね。理由の大半はジュンが握ってるクスリのルートを横取りしようとしたことなんだけど。一度なんかは相手のリーダーがヤクザ予備軍だったりして、かなり本気モードで来たらしい。ほら、さっき言ったようにジュンたちって人数も少なかったし、いざというときに動かせる兵隊もいなくて、正面からやりあったらヤバかったらしいんだよな」
 ドラッグとそれが生み出すカネを握っていた渡利が兵隊を調達できなかったというのは意外だが、それだけ渡利が世間との必要以上の関わりをもっていなかった証拠かもしれない。
「ところがさ、実際にジュンたちが事を構えたことは一度もないんだ。いつもその直前で対立する連中がパクられたり、どこかからストップがかかるんだ。俺、そのヤクザ予備軍を知ってるんだけど、そいつが言うには県警の刑事が来て「揉め事を起こすんならパクる」ってハッキリ警告されたらしい」
 おかしな話だった。どんなものであれ警察が不良グループの抗争を望まないことは事実だが――理由はもちろん後始末が面倒だからだ――ダンナさんの話のとおりなら、警察は渡利たちを守るために圧力をかけていたように見える。一度ではなかったのなら、その疑いはより濃いものになる。
 しかし、実際には県警の薬物対策課は渡利たちの捜査に乗り出している。その捜査担当者がアタシの父、佐伯真司だ。警察のどこの部署が渡利を庇うような動きをしていたのかはダンナさんも知らないようだった。
「ところで、渡利が死んだ後のグループがどうなったか、ご存知ですか?」
 アタシが知っているのは逮捕された者がいないことと、和津実の話によれば何者かに追われるような形でグループが離散したことくらいだ。もし、グループに与えられていた庇護が渡利の個人的な何かに拠っていたのなら、渡利の死によってそうなってしまったのは当然の帰結ということになる。
「カズナリとヤスユキは、いつだったか、街中で見た。中洲のラ・ロシェルってホストクラブにいるって聞いたけど」
「ラ・ロシェル?」
「フレンチの鉄人とは何の関係もないよ。適当にフランス語っぽい名前にしただけだと思う。っていうか、あれってもともと地名だし」
「あいつらにホストなんて務まるの?」
 留美さんが口を挟んだ。
「どうだろ。ああいうトコもピンキリだし。ホストクラブに行くようなバカ女だったら、意外と騙せるんじゃないか?」
「かもね」
「モリヤって人は? そいつもホストだったんでしょ?」
 ノンさんが言った。
「いや、モリヤのその後は聞かないな。借金ダルマだって話を聞いたことあるから、福岡にはいられなくなったんじゃないかな。シノハラは別の事件で逮捕されたはずだ。やっぱり薬物関係だったと思うけど、はっきりしたことは知らない。クスリなら初犯じゃないから塀の中だろう」
 他の使い走りの二、三人についてはまるで分からないとダンナさんは続けた。
 和津実は渡利の遺産を探し出すにあたって、その在り処を知るのは――少なくとも手掛かりを持っているのは葉子だと見当をつけていた。
 それが事実だったかどうかは分からない。しかし、直接的に彼女の口を割らせようとはしなかったし、それ以前に渡利の遺産を捜していることを葉子に感づかれないようにすらしていたフシがある。
 その理由として、和津実は当時のメンバーに自分の独り占めの計画を気づかれたくなかったと言った。タチバナたちに脅かされた状況で冷静な作り話ができたとはとても思えないが真偽のほどは不明だ。
 モリヤという男については確信はないが、使い走りの男たちに渡利の後釜を狙うような度量も、そこまでの執着もなかったような気はする。だとすると、和津実が恐れた”かつての仲間”とは双子のキックボクサーだということになる。
 しかし、それを知ったところでそもそもの疑問――葉子がアタシと接触しようとして、結局は手紙を寄越しただけに終わった理由にはまだ一歩も近づいていなかった。上社を信用していないわけではない。ただ、葉子が上社に本当のことを語ったとは限らないからだ。
 そしてもう一つ。村上が葉子と接触していることの意味が分からない。
 由真は、それと葉子がアタシを捜したこととは関係がないんじゃないかと言った。時系列で言えば、確かに葉子が上社に依頼してアタシの行方を捜したのが五月前後、そして、村上が葉子の勤め先のラウンジを訪ねたのは七月以降の話だ。村上の訪問は葉子の行動に直接影響を与えていないように見える。葉子の側からすれば、確かに由真の言うとおりなのかもしれない。
 ただ、アタシが知っている村上という男は思いつきや勘で行動するような人間ではない。詰め将棋のように一手ずつ、確実に手を進めていくタイプだ。以前から何かを追っていたのだとすれば。その調査の過程で葉子と接触したのだとすれば。
 葉子と村上の間に、渡利純也の事件以外に共通する事柄はないはずだ。葉子の行動が村上との接触と何の関わりもないとは考えにくい。
「――どうしたの真奈ちゃん、恐い顔して?」
 向かいのノンさんが心配そうな声で言った。
「あ、いえ、ちょっと気になることがあって」
 一瞬迷って、ノンさんとダンナさんに自分が渡利純也のことを調べ始めた経緯や、自分が抱いている疑問を話した。アタシの父親が渡利を死なせた張本人なのだと言うと、二人はかなり気まずそうに顔を見合わせた。
「……その村上って刑事、知ってるよ」
 ダンナさんが言った。
「えっ!?」
「ここを訪ねてきたことがあるんだ。ジュンのことを聞かせて欲しいって。まだ警察があの事件を追ってるって知って、ちょっとビックリしたんだけどさ」
「それ、いつ頃の話ですか?」
「ちょうど一年くらい前かな。ここがオープンしたのが、去年の七月だから」
 その時にもらった名刺があると言って、ダンナさんはキッチンに入っていった。
 ノンさんが席を立って、コーヒーのお替りを注いでくれた。カップから立ち上る香ばしい香りがアタシの心を少しだけ宥めた。
「あった、あった。これだよ」
 ダンナさんは名刺をテーブルに置いた。何度も見たことがある、色気も素っ気もない警官の白い名刺。縦書きの明朝体。末尾が”0110”で終わる電話番号。
 そこには”福岡県博多警察署 少年課 村上恭吾”と記してあった。

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