Left Alone

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  第 74 章 

 アタシとシュンはつくづく噛み合わない運命にあるらしかった。
 空気が読めないこととか相手の気持ちを察するのが壊滅的にダメとか、シュンについてはアタシにも幾らかの言い分がある。だが、どちらが悪いのかと問われれば非はアタシにあるだろう。この前のキャナルシティもついさっきも原因はほぼアタシの八つ当たりだからだ。
 戻って謝ろうかと思わないではない。
 けれど、そんなことをするくらいなら最初からキレなければいいわけで、どうにも引っ込みがつかない状態だった。
 大名の路地を目的もなく歩きながら、ふと、救急車で運ばれていく鶴崎の姿が脳裏をよぎった。
 次はシュンかもしれない。
 この後、新庄の部下たちがどういう行動に出るのか、アタシには皆目見当がつかない。ただ、それが決して友好的なものでないことだけは間違いなかった。アタシとこれ以上一緒にいればシュンをそれに巻き込んでしまう。
 本人を目の前にして言えば「いまさら何言ってんだ?」と笑われるだろう。
 実はアタシもそう思っていた。押し寄せる不安をごまかすために誰にかに頼りたくて、シュンが寄せてくれる好意に甘えたくて仕方なかった。
 けれど、それは許されないのだ。さっきの出来事はそう教えてくれていた。シュンとの諍いはいいきっかけだったのかもしれない。かなり強引なこじつけだがそう思い込むことにした。
「……さて、と」
 とりあえず、時間を巻き戻さなくてはならなかった。菜穂子と別れてから数時間が過ぎている。何か進展はあっただろうか。
 ケイタイを鳴らすと不機嫌そうな声が洩れてきた。
「おっそいじゃない。何やってたの?」
「いえ、ちょっと……」
 僅かの間にちょっとでは済まされないことが起こっている。しかし、それを伝えていいものかという迷いがあった。これ以上、誰も巻き込めない。
「警察のほうはどうでした?」
「うん、まあ。届けは出したし、いっしょに行ったお爺ちゃんが小芝居して大袈裟に騒いでくれたんでね。警察もいつもみたいに書類をカゴに放り込むだけなんてことはないはずだけど」
「期待はできないってことですね?」
 先を読んだアタシに菜穂子はため息で応えた。
「実際の話、失踪届が出たからって警察もすぐ何かできるわけじゃないのよ。ま、分かってたことだけどさ」
「ですね」
 由真の失踪届が出たことは新庄やその部下たちの耳に入るだろうか。
 届けは所轄署に出されている。それを即座に拾い上げるほどのネットワークを奴らが持っているとは思えない。そんな人員はいないはずだし、第一、いくらキャリアエリートでも所轄の末端部署――しかも何処に出るか分からなければ複数――にあらかじめお触れを出しておくことなんかできるはずがない。怪しまれること間違いなしだからだ。
 しかし、もし奴らと接触できたときに何らかのプレッシャーにはなるかもしれない。
 逆に言えばその程度の効果しかないのだった。菜穂子にはちょっと言えないが。だが、それだってないよりはいい。シュンが教えてくれた画像安定機を使ったアナログコピーの話も。奴らだってアタシの動きを一〇〇パーセント監視できていたわけではない。ブラフとしてなら充分使えるネタだ。
 アタシがそれ以上何も言わないので話は途切れた。
 菜穂子は少し不満げだったが、お互いに何か動きがあったら電話すると約束して電話を切った。”動き”が意味するところにはかなり不吉な要素が付きまとうのだがそのことには二人とも触れなかった。

 これ以上街にいてもできることはなかった。
 ロードスターは天神地下駐車場に置きっ放しだし、それ以前にアタシは我慢できずにアルコールを飲んでいた。何処かに行こうにも移動手段がない。できることがあるとしたらタクシーを拾って家に帰ることくらいだ。
 まあ、家に帰ってもとても眠れないだろうが。ひょっとしたら疲れとアルコールがアタシの意識を暗闇に叩き込んでくれるかもしれない――そんな期待も少しはある。けれど、そんな眠りならないほうがマシだ。
 アタシはふらふらと西通りを歩いた。
 ふと、ずっと昔、父の事件の後で夜の街を彷徨っていた頃のことを思い出した。中洲の国体道路のローソン前にも結構居座っていたが、基本的にあそこは大人の街だ。アタシみたいな子供はどうしても浮いてしまう。居心地が悪いのは何処だって同じだったが、足は自然と天神や大名に向いた。
 あの頃、アタシはアタシを知る誰とも会いたくなかった。だから、一〇〇パーセントの他人の群れの中に身を置いていたかった。
 もちろん、当時だってアタシの周りにはアタシを愛してくれる人たちがちゃんといた。アタシを引き取って育ててくれた祖父母。まだ言葉を交わす前だったのにアタシを心配してくれていた由真。顔を合わせれば説教を垂れた権藤課長。その他、大勢のアタシを取り囲んでくれていた人たち。
 そして、村上恭吾。彼もまたアタシの身を案じてくれていた一人だ。どうして父を告白した理由を語らずにアタシに背を向けたのか――その答えは結局聞けないままだが。
 
(どうして、何にも言ってくれないの!? 父さんの事件のときだってそう。本当のことを話してくれてれば、あんなにあんたを恨まずに済んだ。そうやって何でも自分一人で抱え込んで、何でもないよって顔するのが格好いいとでも思ってるの?)

 あの六月の夜、放った言葉をアタシは一言一句違わずに覚えている。村上に向かってアタシが初めて投げつけた本心だからだ。
 村上は何も言わなかった。
 本当は”言えなかった”が正解なのかもしれない。だから、得意の屁理屈と話術でアタシの追及を巧みにはぐらかしてきたあの男が、初めてアタシの前から逃げた。雨の夜に飛び出して行ったまま帰ってこなかった。
 しかし、逃げたのはアタシも同じだろう。本当に答えが知りたかったのなら答えてくれるまで向かい合うべきだったのだ。しかし、それ以上傷つくのが怖くてすべてを村上のせいにした。
 村上は決してアタシを見捨てたわけじゃないかった。上社がアタシをごまかすために作った身上調査書がその証拠だ。上社は村上へのヒヤリングからあの書類を作ったと言っていたが、あれには当の本人ですら忘れかけていた事柄まで書かれていた。
 そのときは何も気付かなかった。しかし、書かれていた事柄には村上と断絶していたはずの一年も含まれていた。二年前の敬聖会の事件で偶然出くわすまでアタシの前に顔を出すことはなかったが、村上はアタシのことをずっと見守ってくれていたのだ。
 無性に村上に会いたくなった。会って何もかもを謝りたかった。大切な証拠をむざむざ奪われたことももちろんそうだが、何よりも自分だけが被害者面をしてきたことを。
 どうしてアタシはもっと素直になれなかったのだろう。

 アタシの中で何かが吹っ切れた。もともと根比べは好きじゃない。やろうと思えばできないことはないが、相手の出方を待ってカウンターをとるのはアタシのやり方ではない。
 これまで、アタシは見えない敵に一方的に攻められてきた。しかし、もう相手の姿形をはっきりと捉えることができている。やらなくてはならないこともハッキリしている。ならば、そろそろ反撃の時間だ。
 足は自然と親不孝通りに向かった。
 猥雑で活気があったのはアタシがまだ子供だった頃の話だ。今は灯りが点っていても薄暗くて怪しくて、普通の女の子は独り歩きなどできないちょっとしたゴーストタウン。あるのは飲み屋と居酒屋と踊るほうのクラブ。だから住人もそれに見合った若くていきがった連中ばかりだ。
 ボニー・アンド・クライドが入ったビルの前を通り過ぎた。思えば真っ当な人間だった権藤康臣に最後に会ったのもここだった。二本指を額の前にかざす、今どき誰もやらない仕草の挨拶をする姿を今でもはっきり思い描けた。
 そして、長浜公園の前。
 曲がり角に建つ小さな舞鶴交番。最盛期は福岡市内で一番忙しい交番だったそうだけど、今は住宅地にある交番よりも暇そうに見える。父が事件を起こした夜もそうだったのだろう。アタシは彼らが逃げてくる渡利純也とアタシの父に早く気付いてくれていたら、その後の悲劇は避けられたんじゃないかと思ったことがある。父が渡利を殺したのは交番前を通り過ぎてすぐの歩道だったからだ。
 すべてはここから始まったのか。
 いや、そうではない。それがいつだったかをハッキリ言い切ることはできないし、そもそもそれは事件にかかわった人間それぞれで違うからだ。
 渡利純也にとっては山中の事故で死にかけたときかもしれない。親友とその家族の死によって人生を狂わせた哀れな男。あれほど憎んだはずの麻薬の売人をそう思えるのは少し不思議だ。
 新庄圭祐にとっても同じなのだろうか。
 いや、アタシはもっと前だと思う。キャリアの階段を上りつめていく過程で手にした力の腐った側面に気付いたときか。
 馬渡にとってはどうなのだろう。シュンの父親の手を撃ち砕いて捜査四課にいられなくなったときか。それとももっと前からあの男は誰かを虐げ傷つけてきたのだろうか。井芹は? 立花とその手下たちは?
 アタシは舞鶴交番のドアを開けた。深夜で幾らか眠そうな顔をしていた若い警官が瞬時に仕事の顔に戻った。
「どうされました?」
「こんな時間にすみません。県警の公安総務課の馬渡警視に連絡が取りたいんですけど」
 当直の若い警官は目を白黒させた。
「公安……総務課?」
「ええ。そこの馬渡って人に連絡が取りたいんです。っていうか、連絡しろって言われてて」
 意味が頭に染み渡らないのか、警官は眉根を寄せて顔をしかめている。厳めしい顔立ちの人間がやればそれなりに威圧感があるのだろうが、柔和な顔つきのこの男がやるとどこか滑稽な感じがした。
「へぇ……。まあ、座りなよ。麦茶でも飲むかい?」
 若い警官は手でアタシに椅子を勧めて、奥のほうの小部屋に入っていった。急に口調がフランクになった意味はよく分からない。
 他の人間はパトロールに出ているのか、交番にいるのはこの若い警官だけだった。何人いてもやることに変わりはないが、複数の人間と話すよりは一人のほうがやりやすい。若い警官はビールのギフトのおまけについてくるような小ぶりなビアジョッキをアタシと自分の間の小さな脇机に置いた。
「連絡って何を?」
「それは言っちゃいけないって言われてるんです。ただ、ある条件が整ったときに連絡をくれって言われてて」
「条件?」
 アタシはこくりと頷いた。
「それも言っちゃいけないんだけど」
「ふうん……。で、その条件とやらが整ったのかい?」
「そうなの」
「ねぇ、ひとつ訊いてもいいかな?」
「なに?」
「その……公安総務課の馬渡さんは君に連絡先を教えてくれなかったのかい?」
 アタシはわざとらしいため息をついた。
「そうなの。いざってときは交番に駆け込んで、県警に連絡してもらうように言えば大丈夫だからって」
「なるほどねぇ……」
 警官は頭がおかしい人を見るような眼をアタシに向けていた。表情は興味半分、失笑半分といったところだ。
 まあ、当然のことだ。自分でも荒唐無稽なことを言っている自覚はある。ただ、警察官という人種はそれがどれだけ馬鹿げた与太話であろうとも話を途中で切り上げたりしないことをアタシは経験で知っている。一つは彼らはどんなくだらない内容からでも何かしらの情報を得ようとするからで、もう一つはもし相手にしなかったことに絡んでトラブルが発生したときに責任を追及されることを本能的に回避しようとするからだ。
 しかし、彼は腕組みをして殊更難しそうな顔をした。
「うーん、まあ、交番ってところはその……県警本部の受付じゃないんで、誰それと話したいから取り次いでくれって言われても、ハイそうですかってわけにはいかないんだ。そこは分かってもらえるかな?」
「ダメなんですか?」
「その、ダメっていうか、できたら、朝になってから直接電話してくれると有難いな」
「でも……朝まで待てないんです。じゃあ、公安総務課の直通番号を教えてください」
「……直通は非公開なんだよねぇ」
 こういう展開は一応想定していた。アタシは公安課の仕事の何たるかなどまったく知らないが、言い方を変えれば公安課はそれくらい一般市民の生活とかけ離れたところにある部署ということになる。毛利課長や片岡警視の話によれば警察の中でもちょっと独特のポジションにあることも間違いない。そんなところの直通番号をおいそれと洩らすはずはなかった。
「じゃあ、アタシの代わりに訊いてもらえませんか?」
「……えっ?」
「こうこう、こういう人物が来てるんですがどうしましょうかって伝えるだけならいいでしょ?」
「えー、まあ、そうだねぇ……」
 警官の表情が何かを計算しているものに変わった。相手にせずに追い返すか、それとも、間抜け呼ばわりされる可能性を覚悟の上で一応連絡だけ入れてみるか。責任転嫁できそうな上司が戻ってくるのを待っているのは明らかだったが、助けが現れる気配はなかった。
「あっ、そうだ。名前訊いてなかったね。とりあえず名前訊いとこうか」
 警官は時間稼ぎに出た。内心ムッとしたが皮肉ったりして反感を買っても何にもならない。アタシは財布から免許証を取り出して渡した。警官はわざとのように時間をかけてメモ用紙とペンを準備した。
「えっと、さかきばらまなさん、と。本籍住所は変わりない?」
「ありません。あ、アタシ写真写り悪いですけど間違いなく本人ですから」
 免許証の写真というのはどうしてあんなに悪人面に写るのか。コントラストが強いので彫りの深さが強調されてメイクもしてないのに宝塚の男役みたいな顔になってしまう。ちなみにパスポートのやつはもっとひどくてまるっきりオカマ顔だ。モデル仕事を始めた今ならもうちょっとマシな写り方ができるのだが撮り直しの機会がない。
「コピーとらせてもらうよ」
「どうぞ」
 警官はアタシの免許を持ってコピー機に向かった。
 身元を確認したということは、少なくとも門前払いの方向ではないということだ。そして、ここにアタシが現れた痕跡を残すのは狙いの内の一つだった。
 アタシの目的は保険をかけることだった。
 もう誰も巻き込まないと決めた以上、アタシは一人で新庄とその手下どもと対峙しなくてはならない。しかし、それはあまりにも危険なギャンブルだ。奴らの腰を引けさせる一手が必要だった。そこで思いついたのが警察内部の同志討ちだった。
 そもそも、アタシは大きな思い違いをしていた。
 藤田警部補の話によれば、新庄圭祐は次の次の次くらいの警視総監候補の一人だ。退官した父親も警察出身で政治家への転身が噂されるほどの人物だという。
 ということは、新庄は警察官僚の中でかなりの有力者ということになる。そして、その影響力をもって県警のさまざまな部署に干渉し、子飼いの部下を抱えているのだ。外事課長の井芹しかり、公安総務課の馬渡しかり。アタシが――村上がという意味でもあるが――把握していない人物がいる可能性も十分ある。監察官室も連中もほぼ言いなりと言っていい。警察の外にも立花のような男を飼っている。
 だから、アタシは新庄の影響下にある警察は一切信用できないと思い込んでいた。しかし、新庄は有力者であっても絶対者ではない。次期警視総監の”候補”であるからには、当然競争相手がいるはずなのだ。
 新庄が女子高生を買春していたこと、真夜中の山中で事故を起こし一家三人を死なせたこと、子飼いの部下を動員してその事実を隠ぺいしたこと。事故から一人生き残った男に脅され取引に応じたこと。男が死んだ後、その連れを無慈悲に狩り立てたこと。失われた証拠物件を追い続けていたこと。それを手に入れるために二人の少女の命を奪ったこと。
 そのすべてをぶちまけることがアタシにはできる。
 もちろん、証拠はすでにアタシの手にない。あのDVDも割られてしまったことだろう。法廷で新庄とその手下どもを追いつめることはできないかもしれない。しかし、それでもそういう疑惑があるというだけで、ライバルたちにとっては新庄を出世レースの階段から蹴落とす絶好の材料になるはずだ。彼らが調査に乗り出せば村上ですらつかめなかった事実を掘り起こして、堕ちた同僚に引導を渡せるかもしれない。
 同じことが馬渡敬三にも言える。公安課にとって馬渡という男は無理やり押し付けられた厄介者であり、決して愉快な存在ではないはずだ。新庄の手前、表立って邪険にすることはないだろうが快く思っていない人間も多いのではないだろうか。
 たとえば、アタシの身に万一のことが起こったとしよう。アタシはかつて大問題を起こした暴力警官の娘であり、当然のことだが普通の事件よりも警察内で噂になる。そんな折、誰かが”そういえば被害者が公安総務課の馬渡と繋がりがあった”と言い始める。すると、厄介払いがしたい誰かがそれとなく捜査を始める。
 希望的観測であることは否定しない。しかし、その可能性を新庄や馬渡に思い起こさせることができれば、幾らかでも保険の役目を果たすはずだ。
 ただし、そのためには目の前の警官が電話を取り次いでくれる必要がある。
「はい、どうも」
 警官は免許証を返して寄越した。表情は曖昧なままだ。
 まあ、こいつで駄目なら他の交番に行けば済む話ではある。だが、そのために天神界隈の交番行脚をするのもあまり気が進まない。アタシに由真並みのルックスがあれば色仕掛けという手もあるが、目つきの悪い大女がやってもあまり効果があるとは思えない。
 さて、どうしたものか。
「――うーい、お疲れぇ」
 突然、交番の扉が開いて間延びした声が飛び込んできた。アタシは思わず振り返った。
「ああ、先輩。ちょうど良かった!」
「何がだよ。……あれっ?」
 飛びつかんばかりに声を上げる後輩を制しながら、入ってきた警官がアタシの顔をまじまじと見つめた。アタシも同じように彼の顔を見つめていた。
「君は……村上警部補の?」
「はい。あの、病室の前にいた人ですよね?」
 村上が収容された病室の前で警備をしていた風神雷神のうちの年配のほうの警官だった。桑原警部と漫才のようなやりとりをしていた男で、名前は加藤とかいった。
「先輩、知り合いなんですか?」
「直接の知り合いってことじゃないけどな。博多署の村上警部補の彼女さんだよ」
「へっ?」
 若い警官は目を白黒させていた。ここでアタシが三年前にここの目の前で事件を起こした男の娘だと明かしたらどうなるだろう。悪趣味な想像が脳裏をよぎったがくだらないのでやめておいた。
 加藤は相好を崩した。
「いやあ、それにしても奇遇だね。何か相談事かい?」
「あ、先輩、実はですね――」
 アタシを遮るように若い警官が事情を話し始めた。
 加藤は後輩から事情を聞かされると少しだけ怪訝そうな表情を浮かべたが、すぐに「電話してやるくらい構わんだろ」と言って公安総務課に電話をかけるように命じた。不満そうに電話機に向かう後輩に見えないように悪戯っぽく片眼を瞑る。いかつい顔といかつい体躯のいかにも古株の警官だったが、笑うと意外に愛嬌があった。アタシもこっそりと笑い返した。
 どうやらアタシの運はまだ尽きていないらしい。
 

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