砕ける月

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  第 53 章  

「言えないんなら、アタシが言ってあげるわ」
 アタシは言った。
「あれはアンタたちがオリジナルと呼んでいた村松医師殺害の証拠を、熊谷の実家から盗み出したときの副産物みたいなものじゃないの? それは長らく熊谷が由真の母親を脅迫する目的で保管してきたものだった。もちろん、アンタも由真もそんなことを知る由もないんだけどね。熊谷にしてみれば、何かあればすぐに持ち出す必要があるものだから、多分、一まとめにしてあったんじゃないかな。アンタはそれを丸ごと盗み出した」
 高橋は押し黙ったままだった。その沈黙が答えのようなものだった。
「福岡に戻ったアンタは、盗み出したデータを全部チェックして、その中に供述書とその他のファイルを見つけた。アンタはどうしようかと悩んだ挙句、それを同じようにMOディスクに移して、同じように一目じゃ分からないように細工をした」
「……どうすればいいのか、分からなかったんだ」
 高橋は魂の抜ける音のような静かなため息をついた。
「あれは確か八月五日だった。ニュースで明日は広島の原爆の日だって言ってたからね。僕は熊谷の田主丸の実家から、アタッシェケースを盗み出した。中身は由真ちゃんのお母さんが村松という医者を殺した事件の証拠書類――だけのはずだった。しかし、そこにはキミの想像通り、もう一つの殺人事件の証拠も収められていた」
 背後で美幸が一呼吸遅れて息を呑むのが聞こえた。
「由真の育ての母親が、徳永佳織――実の妹であり、由真の実の母親を殺した証拠ね」
「多分、殺すのに使った凶器も一緒に入ってたよ。錆だらけの果物ナイフがね。ボクにはその意味が分からなかった。ただ、それが由真ちゃんに見せちゃいけないものだってことだけは分かった」
「でしょうね。それで?」
「ボクはその日、オリジナルを手に入れたことを由真ちゃんに言わなかった。おそらく手に入るとだけ言ってね。そして、一晩考えて決めたんだ。これは熊谷を直接、問い質すしかないって」
「だからアンタは熊谷に接触したのね。八月十日の夜に」
 高橋は頷いた。
「それが結局、由真ちゃんまで奴らに捕らえられる原因になったのは、腹立たしいのを通り越して情けなかったよ」
「でも、それは同じことだったんじゃないの? いずれにせよ、奴らは由真の身柄を押さえざるを得なかっただろうし、そうなれば、いずれアンタも奴らの言うことを訊かざるを得なかったはずよ」
「そうかも知れないけど……」
 不意に病室のドアがノックされて看護師のおばさんが顔を出した。時間も遅いしケガ人なのだから消灯して休ませるようにとのことだった。美幸がドアのところまで行っておばさんに愛想よく応対してくれていた。
 アタシは椅子から立ち上がった。
「だいたい事情は飲み込めたわ。ところでアンタ、熊谷のファイル、中は確認したの?」
「したよ、もちろん」
「だったらパスワード、教えてくれない? それが分からないと警察が動けないのよ」
「えーっと、ちょっと待って。何だったかな……?」
 高橋は眉根を寄せた。
「ずいぶん長い綴りで、ボクもそらでは覚えてない。何かの曲なんだよね」
「曲?」
「うん、後で知ったんだけど由真ちゃんのお母さん――実のお母さんが好きだったらしいんだ」
 アタシの脳裏にある曲のタイトルが浮かんだ。切ないノスタルジーを誘う甘いメロディ。
「出だしだけでも思い出せない?」
「……えーっと、確か、T、E、N……」
 そこまでで充分だった。
「オーケー、分かったわ」
「それだけで?」
「ええ、多分ね。それにどうせ、全部は覚えてないんでしょ?」
「……そうだね」
 高橋は薄い微笑を浮かべていた。目が微かに潤んでいる。打ちひしがれて、初めて会ったときの傲岸な印象はすっかり影を潜めていた。
 何か声をかけてやりたくなったけど適当な言葉は見つからなかった。
「じゃあ、また来るわ。警察の人が来たらありのままを話して。もう、由真の目論見がどうとかっていう段階じゃないから」
「分かった。由真ちゃんの行方は?」
「それは警察が追ってるわ」
「大丈夫なのかな?」
「安心して。いけ好かない優男だけど、誰よりも頼りになる刑事だから」
 アタシは美幸を促されて病室を出た。
 ケイタイを引っ張り出して着信履歴から毛利課長の直通番号(だろう、多分)を呼び出した。
「――毛利だ」
 毛利課長は相変わらず眠そうな声で言った。
「あ、課長。例のパスワード、分かりました?」
「まだだ。今、目の前でやっとるがね。何でも文字数が多くなるほど、解析には時間がかかるらしい」
 アタシはパスワードの目途がついたと言った。
「ほう。聞かせてもらおうか。ちょっと待ってくれ。――いいぞ」
「言いますよ。T、E、N、N、E、S、S、E、E、W、A、L、T、Z、です。ひょっとしたらEとWの間にハイフンかスペースが入るかも知れませんけど」
「パスワードは普通、半角英数字だけだからそれはないだろう。――おい、どうだ?」
 後のほうは電話の向こうの誰かに言ったようだった。
「外れた? おい、本当か!!」
 毛利課長の声が弾んだ。コンピュータの前に座る誰かにすぐに内容をプリントアウトするように指示している。
「いやあ、助かったよ。どうして分かったんだ?」
「高橋拓哉が断片的にですけど覚えていたんです。で、それがたまたまアタシのよく知ってる曲だったんで」
「そうなのか。えー、これ、なんて読むんだ?」
「テネシー・ワルツですよ」
 アタシにとっては父のクルマで聴くためのテープやMDのラベルに、それこそ暗唱できるほど何度も書いた綴りだった。
「江利チエミの? アレだよな、熊谷のイメージじゃないような気がするが」
「あの男が愛した女性のお気に入りの曲だったんです」
「そりゃまた、ずいぶんとロマンティックな話だな」
 毛利は失笑したように鼻を鳴らした。アタシはそうですねと答えて電話を切った。

「――さて、次はどちらへ?」
 美幸はヘルメットを被ってドゥカティのシートに跨っていた。
「えーっと、次は……」
 梅野のところに行きたかった。でも、こんな時間に無理を言って付き合わせている立場としては彼女にそこまで頼むことは出来なかった。
「ちょっと、どこかで休憩しようか。事件のことも説明しないといけないしさ」
「ファミレス?」
「うん。どこか、適当なところで。美幸の好きなところでいいよ」
「じゃあ、百道の急患診療センター」
「……えっ?」
 アタシの内心を見透かすように美幸はニヤリと笑った。
「あなたのそんなに歯切れの悪いところ、見られるとは思わなかったな。まあ、私はあなたのそういうところもキライじゃないけど。――ねえ、知ってる? 学校内であなたのファンクラブがあるって」
「アタシに!?」
 真夜中だと言うのに、アタシは駐車場中に響きわたるような素っ頓狂な声をあげた。何かを飲んでいたら盛大に吹き出したに違いない。
「そうだよ。まあ、半分は女子高特有の王子様願望っていうか、カッコいいボーイッシュな子がモテるっていうヤツだけどね。でも、あなたと友達になりたいって子、多いのよ」
「……ウソでしょ?」
「ホントよ。いつも徳永さんとだけくっついてるから分かんないのよ」
 美幸はアタシのヘルメットを放ってよこした。アタシはそれを胸元でキャッチしてドゥカティのタンデムシートに乗った。
 ドゥカティはそのパワフルなエグゾーストノートを響かせながら、唐津街道を福岡市内へ向かって走り出した。
 目の隅を流れていく景色をぼんやり眺めながら、アタシは美幸が言ったことを何度も思い返した。
 何と言っていいのか分からなかった。
 父親の事件からずっとアタシは独りぼっちだと思っていた。いじめを受けたわけではないけれど、アタシと周囲の間にはガラスの板を何枚も挟んだようなよそよそしさがあった。
 由真は何度もアタシと周囲を取り持つ機会を作ってくれた。
 その度に心の中では嬉しかったくせに、アタシは気のないふりを続けてきた。それは父親の事件で周囲の人々が手のひらを返すように去っていったあのつらさを、再び味わいたくなかったからだ。
 失うのが怖いから何も欲しくはなかったのだ。
 今、アタシが由真のことをひょっとしたら自分のこと以上に心配しているのは、ようやく自分が受け入れて、そして自分を受け入れてくれた彼女を失いたくないからかも知れない。

 百道浜にある福岡市急患診療センターには警察からの連絡を受けた梅野のお兄さんが来ていた。
「――やあ、真奈ちゃん」
 お兄さんはアタシに気づくと病室前の廊下に置かれた長椅子から立ち上がった。タンクトップとハーフパンツというラフな格好で、いかにもくつろいでいたところを急に呼び出されたという感じだった。
「梅野さんは?」
「さっき、検査が終わって病室に運ばれてきたところ。とりあえず、今夜は泊まって様子を見るそうだけど……」
「そう、ですか」
「心配はいらないよ。浩二のやつ、昔からケガ慣れしてるっていうか、病院にはしょっちゅう担ぎ込まれるくせに、本当にやばいケガはしないんだ。悪運が強いんだろうな」
「でも、頭を打ってるって……」
「大丈夫だよ。あれ以上、頭が悪くなりようがないから」
 お兄さんはアタシを宥めるようにニッコリと笑った。そしてアタシの背後の美幸に目をやった。
「そっちの子は?」
「あ、アタシの友だちです。ここまで乗せてきてもらったんで」
「そうか。あいつ、こんな可愛い友だちが二人もいるなんて、羨ましいな」
 お兄さんの軽口に美幸は控えめな微笑を浮かべて挨拶した。こういうところの卒のなさはさすが本物のお嬢様育ちだ。
「浩二のやつ、まだ眠ってないと思うから、会っていってやってくれよ」
「分かりました」
「じゃあ、俺はこれで」
 そう言ってお兄さんは歩いていった。美幸はアタシの肩をポンと叩いた。
「――さて、じゃあ、私も。バイクのところで待ってるから」
「えっ?」
「真奈の彼氏にはすっごい興味あるけど、まあ、ここは二人っきりにしてあげるわ」
「いや、その……」
「いいから、早く行きなさいよ」
 美幸は今度はアタシの肩をどやしつけた。
 アタシは病室のドアを開けた。
 小さな部屋の真ん中にベッドがあって、その周りにはよくドラマのこういうシーンであるようにモニタや機械類がずらりと並んでいる。その真ん中で梅野は包帯でグルグル巻きにされて横たわっていた。左腕と両脚はギブスで固定されている。
 誰かが部屋に入ってきたことには気づいたようだったけど、首も固定されているのでこっちを向くことは出来なかった。
「――梅野さん?」
「……ああ、真奈さんっすか。誰かと思ったっすよ」
 弱々しく掠れていたけれど意外と明瞭な声だった。
 アタシはベッドの脇にあった椅子に腰を下ろした。梅野は目線だけでこっちを見ていた。
「いや、恥ずかしいっすね。こんなザマになっちゃって」
「そんな……。高橋さんから聞きましたよ。二人を助けるために奴らに立ち向かったって」
 梅野は苦笑いを浮かべた。
「カッとなると抑えが利かないとこ、とっくに治ったと思ってたんすけどね。それに、あの二人のためだけってわけでもないし」
「どういう意味ですか?」
「あいつらが二人をボコボコにして、キャラバンに積み込むときにこう言ったんすよ。あとはあの空手使いの女を捕まえて、MOディスクを取り戻すだけだって。そしたらヒゲ面のオヤジが、捕まえたらその女は好きにしていいかって訊きやがったんすよ。すっげえスケベそうな顔で」
 梅野は嫌悪感に顔を歪めた。おそらくそれは永浦という男だろう。女子高生に手を出してクビになったと藤田が言っていた。
「空手使いの女っていうのが真奈さんのことだって思い当たったら、すっげえ腹が立ってきて。コイツだけはぶっ殺すと思って――」
「飛び出して行っちゃったんですか?」
 アタシは思わず呆れて言った。
「まあ、返り討ちに遭っちゃいましたけどね」
「そりゃあ相手は四人ですもん。しょうがないですよ」
「でも、そのヒゲ面とメガネ男はキッチリやっときましたよ。特にメガネは顔面にハイキックぶちかましときましたから、しばらくはメシ食えないっすね」
 それで須崎埠頭にはあとの三人しか来ていなかったのだ。
 しゃべって喉が渇いたという梅野に、アタシはウーロン茶のボトルに差し込んだストローを咥えさせてやった。
「ケガするってのも、悪いことばっかりじゃないっすね」
「今だけですよ」
 アタシは笑った。
「――状況はどんな感じなんすか?」
 梅野は真顔に戻って訊いた。
 アタシは徳永麻子と会ったところから順に起こったことを話した。事件がアタシの手を離れて警察が熊谷たちの行方を追っていることを知ると、梅野はホッとしたような、それでいて少し残念そうな複雑な表情を見せた。
「じゃあ、由真さんの行方も?」
「それはまだみたいですね。由真が持ち出したファイルの中身を調べて、誰が裏切り者なのかハッキリさせないと、どこから横槍が入るか分からないんですよ。でも、そのファイルにかかってたパスワードもさっき外れたって言ってたから、時間の問題じゃないですか」
「……そうっすかね?」
 梅野は眉根を寄せて表情を曇らせた。
「どういう意味ですか?」
「だって、そのファイルが警察の手に落ちた以上、もう熊谷には打つ手はないんすよ? 監禁とか証拠隠滅とか、そういうのは今さら言い逃れできないにしても、ファイルさえ守ることが出来れば熊谷は刑務所から出てきても再起出来る。そのファイルっていうのが本当にそんなに重大なものなら」
「それは、そうかも知れませんけど……」
「でも、もう熊谷の身に待っているのは、全てを失っての破滅しかないんすよ。今はまだ警察がファイルを手に入れたかどうか確証がないから、いろいろと悪あがきをしているかも知れないけど、ダメだって覚悟を決めたら、何をするか分かんないっすよ」
 その意味がアタシの頭に染み渡るのを待つように、梅野はジッとアタシを見やった。
「それって、由真を?」
「そのオッサンが自殺するようなタマかどうか分かんないっすけど、もしそうなら、愛する娘のような存在である由真さんを道連れにする可能性は、決して低くないっすよ」
「そんな……」
 アタシは熊谷という男について知っていることを思い出そうとした。もちろん、それで彼が自殺を考えるような人物であるかどうかなんて分かるはずはないけれど。
 アタシが見た熊谷幹夫は自信に満ちていて、鷹揚で、知略家だった。アタシの想像もつなかいような修羅場を幾つも潜り抜けた豪胆さもあるだろう。しかし十四年前に死んだ女性に対して愛情を持ち続ける一途さと、その裏返しである弱さも併せ持っている。
「……でも、ヤツが何処にいるかなんて、アタシには分からないわ」
「俺、やつらに捕まってる間、ずっとあいつらの話に聞き耳たててたんすけど、一つ、気になることがあるんすよ。あいつらの一味に宮田ってオバサンがいるっすよね? 由真さんの下着とか用意してた」
「ええ、確かに」
「でも、普通、監禁状態で――まあ、俺らほど扱いは悪くないでしょうけど――、そんなに着替えさせたりするかなって思ったんすよ。いくら夏で汗をかくからって言っても、別に人間は汚れ死にはしないんすから。だとしたら、彼女は監禁というより、むしろ軟禁状態にあるんじゃないかって思うんす」
「つまり、どこかに閉じ込められてるってことですか?」
「そういうことっす。考えてみれば熊谷にとっては、由真さんは今後も付き合っていかなきゃならない相手だし、そこまでひどい扱いは出来ないはずなんすよね。まあ、それに娘のような存在なわけで」
「でも、そんなことが出来るようなところって、そう何処にでもあるわけじゃないですよ? ホテルとかは百パーセント無理だし、普通のマンションでもやっぱりダメでしょうし」
 あの賢しい(そして門限破りのオーソリティでもある)由真を括りつけてもおかずに、そんなところに閉じ込めておけるはずがない。
「まあ、そうなんすけどね……。でも、何処かにあると思うんすよ。熊谷が自由に使えて、それでいて外界から隔離されたところっていうのが」
「そうですねえ……」
 梅野は大きく息をついた。アタシはそれにつられて、同じように大きなため息をついた。
 そしてあることを思い出した。
「ひょっとして、敬聖会の特別病棟かも」
「特別病棟?」
「ええ。敷地の一番奥にあって、警察に捕まりそうな偉い人たちが、面会謝絶を理由に身を隠したりするのに使うんだって」
 アタシは河村靖子の説明を引用した。そして、彼女が言ったことを思い出した。

 
 ――移転のときに熊谷事務長が半ば強引に作らせたって話だけど。

 
「どうして、あのときに思いつかなかったんだろ」
 アタシは歯噛みした。怪しいことこの上ないではないか。
「すぐ、警察に連絡しないと」
「――いや、それは無理だと思いますよ」
「どういうことですか?」
 梅野は辛うじて動かせる右手をそろそろとアタシの手に寄せてきた。アタシはちょっと驚いたけど、そのまま手が重ねられるのに任せた。
「いいっすか、真奈さん。よく聞いてください」
 梅野の声に緊張の響きが混じった。
「残念っすけど警察は多分、何も出来ないっす。家宅捜索令状がないと、敷地に立ち入ることすら出来ない。でも、その令状が下りるには時間がかかる。ファイルのプロテクトが解けて熊谷の容疑が固まったとしても、敬聖会にまで容疑が及ぶわけじゃないっすからね」
「そんな……。だったら、どうすれば?」
「俺らで行くしかないっすね」
「……俺らで、って。――ちょっと、梅野さん、待ってください!!」
 梅野は歯を食い縛って身体を起こそうとした。アタシは慌てて彼の身体を押さえ込もうとした。
 アタシの身体は梅野に覆い被さるような格好になった。梅野を元の姿勢に押し戻すと、アタシと梅野の顔は十五センチも離れていなかった。
 アタシは顔が熱くなるのを感じながら身体を起こそうとした。でも梅野の右手がアタシの腕を掴んでいて、それを振り払わずに起き上がることは出来なかった。
 時間にすればほんの一瞬だったけど、アタシと梅野は唇を重ねた。
 梅野の手が弛んだ。アタシは身体を起こした。
「……ホントにもう、バカなこと、言わないでくださいよ。自分の身体がどんな状態か、自分が一番よく分かってるでしょ」
「でも、真奈さん一人で行かせるわけには……」
「大丈夫、そんな無茶はしませんから。要するに、警察が踏み込むだけの口実があればいいんでしょ?」
「そうっすけど……。あるんすか、そんなのが」
「まあ、それは今から考えるんですけどね」
 梅野の眼差しには疑いの色がありありと浮かんでいた。
「やだな、本当ですってば」
「本当っすね? ウソついたりしないっすよね?」
「し、しませんってば!」
 アタシは乾いた笑いでその場を誤魔化した――もちろん、約束を守るつもりはなかったけれど。








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