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Left Alone

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  第 20 章  

 渡利純也の友人だった男と会えるというシュンの誘いに「必ず行く」と答えたのはいいけど、ボニー・アンド・クライドが営業を終えるのは午前二時だった。今日が日曜日でなければ明け方の五時まで開いているらしい。そんなことは確かめてもいなかった。
「ホント、考え無しなんだから」
 由真は呆れたように言った。
「ふーんだ。イヤなら帰ってもいいよ。寝不足は美容に悪いし」
「どうしてそういうこと言うかな。保護者のあたしが真奈を放って帰れるわけないでしょ」
「……そのセリフ、熨斗をつけて返すわ」
 BMWを大名の立体駐車場に入れて、アタシたちは今泉公園前のダイニングバーに入った。インテリアのショールームのような造りの店で、由真が何度か社長に連れてきてもらったことがあるらしい。この辺りはかつてはラブホテル激戦区と言われていたが、今はカフェの激戦区として知られている。アタシと由真が知り合った夜に入ったカフェもこの近くにあった。今はビルそのものが建て替えられてしまっているが。
 さっきまで頑なにハンドルを渡そうとしなかったくせに、由真はメニューをめくるなり「運転ヨロシク」とほざいて、カリテラ何とかという舌を噛みそうな名前のグラスワインを頼んでいた。
 アタシは彼女を一睨みしてウーロン茶のグラスに口をつけた。甘いものが苦手なアタシはアルコールが飲めない状況になるといきなり選択の余地がなくなる。由真といるときは料理を選ぶのは彼女の専権事項なのでオーダーは任せた。アタシは出てくるものを食べるだけだ。それに何故か、アタシは食事のオーダーのときだけ異常に優柔不断になるというヘンな習性がある。
「何だかなぁ?」
 料理を口に運びながらアタシは呟いた。魚介入りのロールキャベツというちょっと変わった代物だ。
「ん? 一口飲む?」
「一口でも飲酒運転だから。そうじゃなくて、さっきの女の言ってたことよ」
「ああ、和津実が葉子から、渡利純也の隠し財産の在り処を訊き出そうとしてたって話?」
「それも含めてなんだけど。どうもしっくりこないのよねえ」
「どこが?」
「話の流れとしては理解できるのよ。渡利は仲間を信用してなくて、ドラッグやカネをどこかに隠し持ってた。そして、その死によってそれらは行方不明になった。彼女であったはずの和津実すら知らないその在り処を、何故か葉子は知っていた。あるいはその手掛かりをね」
「ひょっとしたら、渡利の彼女は和津実だけじゃなかったのかもしれないね」
「その可能性はなくもないかな。とにかく、和津実はそのことを知って葉子に接近した。もちろん、それは当座のカネを強請りとる目的でもあったんだけど」
「借金、そんなにあったの?」
 和津実の部屋の郵便受けの話をした。由真は「自己破産は……無理だろうね」と言った。裁判所が認めないという意味か、それでも逃げられない借り先があるという意味かは怖くて訊けない。
「強請りの口実は、葉子が渡利を警察に売ったという事実。渡利がいなくなってドラッグとカネを失ったことでグループは壊滅。和津実に言わせると、何かから必死で逃げ回ってたらしいのよね。多分、商売上の不義理になったとか、または敵対してたグループとかがあって、それに追われたとか」
「ふむふむ。あ、真奈、コレ美味しいよ」
 由真はシーフードを包んだ生春巻きの皿をアタシに押しやった。一口かじってみると、確かに美味しかった。
「葉子が渡利の遺産の在り処を知ってたっていうのは、確かな話なのかな」
「和津実はそう思ってるようなんだけど、確かな話とはいえないね。葉子に面と向かっては訊けなかったようだしさ。渡利を売ったってだけなら当時の仲間の怒りは葉子に向かうだろうけど、もし葉子が開き直ってぜんぶぶちまけたら、今度は独り占めしようとした自分に矛先が向くから」
「なかなか難しいところだね。で、何がしっくりこないの?」
「それと、葉子がアタシを探したことの関係。だってこれ、アタシに累が及ぶような話じゃないでしょ?」
「その隠し財産に真奈のお父さんが関わってない限りね」
「父さんが!?」
 アタシの素っ頓狂な声が静かな店内に響きわたった。他の席からの冷ややかな視線にバツの悪い思いで首を竦める。由真はこういうときは意外と平然としていて、集まった視線が散っていくのを何でもない表情で待っていた。
「ちょっと、それどういうこと?」
「あくまで可能性の話だよ。でも、まったくあり得ないことでもないかな。葉子は渡利のグループを抜けるために、渡利がドラッグの取引をすることを警察に通報したわけでしょ。だとしたら、その証拠物件としてその隠し財産のことを話していても、おかしくはないよね」
……まあ、そうだけど」
「でも、あの事件の後、そのドラッグやカネは押収されてない。されてればグループのメンバーは全員逮捕されてるはずだものね。和津実も含めて」
「でも、それとアタシがどういう繋がりになるの?」
 由真は小さく咳払いして「これはあくまでも和津実の立場から邪推した話だけど」と前置きした。

「葉子が渡利を売った刑事には当然、ドラッグの在り処も洩れていたはずだった。ところが、それらは押収されなかった。和津実はこう考える。その刑事と葉子はグルで、それらをこっそり自分たちのものにする気だったんじゃないだろうか。しかし葉子は尻尾を出さない。相手の刑事も刑務所に入っていて手が出せない。でも、その刑事には娘がいる。ひょっとして刑事はその娘に何らかの手掛かりを残しているかもしれないし、上手く使えば葉子との取引材料にできるかもしれない。和津実は葉子との会話の中でそんなことを仄めかしたんじゃないかな。だから、心配になった葉子は音信不通だった真奈を探し出した。――どうかな、この筋書き?」
「あり得ない話じゃないと思うけど」
 和津実がアタシの父親の名前を覚えていなかったことや、アタシの存在を知らなかったことを指摘すると、由真は腕組みして口をへの字に結んだ。
「だったら、何なんだろうね」

「ホントだね」
 アタシと由真は顔を見合わせて、盛大なため息をついた。

 その店で他愛もない話をしながらずいぶんと時間を潰したが、だからといって午前二時まではそこにはいられなかった。選択肢としてはこのまま街をブラブラするか、ボニー・アンド・クライドで閉店を待つかということになる。
「どうする? アタシ、クラブとか行ったことないんだけど」

「あたしもずいぶん行ってないなぁ。ところで真奈って踊れるの?」
「謝恩会で踊って見せたことあるでしょ」
「あれはソシアルダンスじゃん。アップテンポな曲で踊ってるイメージってないよね」

「バカにしないでよ。リズム感はいいんだから」
「だったら踊ってみせて」
「……考えとく」
 多分、ちゃんと習えば踊れると思う。しかし、アタシはそういう場所で踊ったことがない。こればかりはセンスの問題なので、運動神経とか身体能力ではどうにもならないだろう。
 何と言って言い逃れるか思案しながら、天神西通りを北に歩いた。そのまま昭和通りを渡って親不孝通りに入る。夜になればネオンサインや看板の灯りに彩られて、昼間のようなうらぶれた雰囲気は影を潜めている。パッと見た限りではそれほど治安が悪いようにも見えないし、実際、人目につく表通りでは何も危険を感じさせるものはない。

 夜になれば灯りは――特に街の灯りはそれを照らす誰かが見せたいものだけしか映し出さない。本当のことはその影にあるというのに。それは夜の街が持っている本質的な嘘くささだ。
 由真はいつものようにアタシの腕に手を絡めていた。おかげで行き違う人々の視線が微妙なものを見るような感じで落ち着かなかったが、由真の手にはいつもより幾分力がこもっている。
「……あれっ?」
 ボニー・アンド・クライドが入っているビルの前についたとき、由真が言った。
「どうしたの」
「あれって、真奈のお父さんの上司だった人じゃない?」
「へっ!?」
 由真が指差した方向を見た。
 通りの斜向かいのビルの入口にごま塩頭の壮年の男性が立っている。少しブカブカな感じの半袖のワイシャツに地味なネクタイ、同じくサイズの合わないダークブラウンのスラックス。タチバナのように最初からルーズなシルエットなのではなくて、痩せてサイズが合わなくなったような不恰好さだった。手にはくたびれた革の書類カバンを提げて、手にしたハンカチで首筋を拭っている。比較的安い店が多いので仕事帰りのサラリーマンだって見かけないわけじゃないが、この通りにはおよそ似つかわしくないくたびれ具合だ。
 間違いない。アタシの父親の元上司、県警の薬物対策課の権藤課長だ。最後に会ったのは二年前の由真の母親の事件のときで、由真が彼を知っているのもそのせいだ。そのときに比べると権藤課長は驚くほど痩せこけていた。もともと中年太りとは無縁の人だったので、胃潰瘍にでもなったのかと思わせるほどだ。
 声をかけるかどうかは考えるべきところだった。というのも、アタシは補導されるたびにわざわざ出向いてきた彼に説教をされていて、そのせいか、この人の前だとどうしても身が竦んでしまう。もちろん、それはアタシのことを心配してくれての話で、感謝こそしても疎んだりすることではないのだが。
 気にかけてくれるのは父と権藤課長が上司と部下以上に仲が良かったこともあるし、ずいぶん前に別れた奥さんとの間にアタシと同じくらいの娘がいるからでもある。

 アタシは思っていた以上に彼を凝視していたらしくて、視線を感じてこちらを振り向いた権藤課長とバッチリ目が合ってしまった。彼はアタシだと分かると少しバツが悪そうに相好を崩した。
「よう、真奈ちゃんじゃないか。奇遇だな」
「お久しぶりです。どうしたんですか、こんなところで」
「いや、昔の知り合いがやってる店を訪ねてきたんだが、どうやら潰れてしまってたようなんだ」
 権藤課長は顔をしかめた。ギョロっとした目と面長なところが室田日出男に似ていて、八名信夫にそっくりなアタシの父親(本人はトミー・リー・ジョーンズと主張する)と並ぶと下手なヤクザよりもよっぽど強面に見える。
「約束はしてなかったんですか」
「急に行って驚かそうと思っていたんだよ。で、真奈ちゃんはこんなところで何やってんだい?」
「知り合いのお店に来たんです。こっちはちゃんとやってますけど」
「そいつは羨ましいな」
 この人は説教好きのオジサンの常として、話し始めると長い。アタシと権藤課長が話している間、由真はビルの入口で向こうを向いていた。母親の逮捕後、由真も事情聴取とやらでずいぶんと警察に小突き回されている。心穏やかならざるものがあっても無理はない。
 背後の由真の退屈そうなオーラを感じてどう切り上げるか思案していると、権藤課長は腕時計に視線を落として「じゃあ、俺はこれで」と言った。
「あんまり遅くなると、お祖母さんが心配するぞ」

「気をつけます。じゃあ、また」
 権藤課長は指二本を額の前にかざす、今どき誰もやらない仕草をして長浜のほうへ歩いていった。

「なんだ、最初からこっちにすればよかったね」

 由真はソファに腰を下ろしながら壁に貼られたジャンゴのLPジャケットを眺めていた。もちろん、彼女にそれが誰のものかなど分かるはずもない。
「まぁね、店で待たされると思ってたから」

「嫌いじゃないけどね。あ、でも真奈のダンスを見逃しちゃったな」
「いいの、そんなこと」
 事務所兼休憩室のドアが開いて、シュンが顔を出した。

「お〜い、飲み物は何がいい?」
「あ、あたし――」

「二人ともペリエでいいです」
 アタシは言った。シュンは小さくうなづいて引っ込んだ。由真は少しだけ不満そうな顔をしたが、この後の話は一杯飲みながらという類のものではない。
 ボニー・アンド・クライドのフロアに流れるトランス・ミュージックの大音量は、そこでの会話をまるで不可能にするものだった。隣にいる由真に顔を寄せないとまともに話をすることができないのだ。スピーカーの向きなどでボックスやカウンターならある程度は話せるかもしれないが、あと一時間以上も待つことはできそうになかった。
 引き返そうかとしていたアタシに気づいたシュンに耳に指を突っ込むジェスチャーをみせると、隣にいたスキンヘッドのバーテンダーが裏に通じるドアに行くよう目配せしてくれたというわけだ。
 ペリエのビンを持ってきたシュンが、目当ての人物は閉店間際に来る予定だと言った。アタシたちはそれまでこの部屋で時間をつぶさせてもらうことにした。
 由真はさっそくデスクトップの電源を入れると、アタシが見せてもらった防犯カメラのDVDの再生に取り掛かった。岸川の了解はとってあるとは言え、まるで自分のパソコンをいじっているような迷いのなさだった。そういうソフトは概ね操作が同じなのか、由真は特にマニュアルやヘルプを見ることもなく操作画面までたどり着いた。
「で、何時ごろだっけ、和津実が顔を出したのは」
「八時過ぎ――半頃じゃなかったかな」
「オッケー」
 由真はペリエをラッパ飲みした。時刻を入力すると再生が始まった。
「この人?」
 画面には葉子と和津実のアップが映し出されていた。画質は少し荒いがお互いに不機嫌そうな表情を捉えている。
「和津実には子供がいるんだよね?」
「そんな話だったね。それがどうかしたの?」
「このときもだけど、今日だって仕事に出掛けるのに子供はどうしてたんだろうね。旦那は行方不明なんでしょ?」
「そうだけど。家で一人お留守番なのかな?」
「どんなに大きくても二歳くらいでしょ。それは無理だよ。ひょっとして最近流行りのネグレクトだったりして」
「えー、やめてよ」
 可能性は少なくないが、実際には実家に預けているとか、そんなことだろう。と言うか、そうであって欲しかった。
「――ところでさ、村上さんってどうして子供いないの?」
 唐突な話題の変化についていけず、思わず「へっ!?」と訊き返した。

「どうしたの、いきなり?」
「いや、そんなに深い意味はないんだけど。子供繋がりで、そういえば何でかなあって。だって、ずいぶん早くに結婚したんでしょ」

「警察に入って半年くらいで結婚したって聞いてるけど。ま、その人とは学生時代から同棲してたんだけどさ」
 それが村上がまったく家事ができない理由だった。もっとも、あの口論の後に見に行ったときはちゃんと掃除はされていた。できないのではなくて、やる気がないだけなのかもしれない。

「その人と会ったことある?」
「何度か」
「名前は?」
「さぁ、何だったっけ」

 嘘だ。本当はしっかり覚えている。村上菜穂子――字は違うがアタシの母親と同じ名前だ。離婚して旧姓に戻っているはずだが、それが何といったかは本当に覚えていない。
「どんな人?」
「どんなって……。よくできた奥さんだと――だったと思うよ。ちょっと痩せぎすだけど綺麗な人だし、正直、あいつには勿体ないくらいね。自分も仕事してるのに、ちゃんと旦那の身の回りの世話も手抜きなしだったしさ」
 村上の身だしなみの整い具合を思い出すと、今でも感嘆のため息をついてしまう。スーツやシャツにプレスがかかっているのは当然のこととして、アタシは村上がよれたハンカチを持っているのを見たことがない。
「仕事って何してたの?」
「弁護士。大手門のほうの大きな法律事務所で刑事専門でやってるって聞いたな。若いのに凄腕って話だけど」
「だったら忙しかっただろうね。それが子供を作らなかった原因かな?」
「そこまで立ち入って訊いたことはないけど……。そうかもしれないね」
「奥さんは在学合格なのかな。村上さんは四回生のときに司法試験を受けて、論文で落ちたっていってたけど」
「いや、確か、結婚して最初の二年は専業主婦しながら受験生してたって言ってたかな。そもそもあいつがウチに出入りしだしたのは、奥さんが司法修習で家を空けることが多くて食べるものに困ってたのを、父さんが見かねたからなのよね」
「へえ、そんな人には見えないけど」

「見た目だけだよ」
 アタシがそう言うと、由真は可笑しそうに目を細めた。

 話はそこで急に途切れた。急に村上のことを訊き始めた彼女の真意がつかめなくて、アタシは戸惑っていた。由真はそんなアタシを話の糸口を探すようにジッと見詰めていた。
「真奈ってば村上さんのこと、どう思ってるの?」

 いつもと違う、冷ややかな声音だった。
「どうって……別に何とも。だって歳も一回り違うし、そもそもそんな対象でもないしさ。お互いにね。それにアタシとあいつの間のことはあんただって知ってるでしょ。――どうして急にそんなこと訊くの?」
「ううん、真奈にその気がないんだったら、あたしが村上さんに行ってもいいのかな、とか思ってさ」
「嘘でしょ?」
 思わず由真の顔を見やった。由真は正面からアタシの目を見返していた。
 そうやって見詰め合っているうちに、いつものように笑い出すんじゃないかと思っていた。でも、由真はその怜悧な表情を崩そうとはしなかった。

「……本気?」
「そうだよ。いけない?」
 しばらく、互いの目の色を探り合うような時間が流れた。

「……好きにすれば?」
 アタシはようやく、それだけの言葉を絞りだした。由真は口許にシニカルな微笑を浮かべて「……そうだね」と言った。

 知り合って以来、もっとも気まずい三十分が過ぎた。
 由真が何を思ってあんなことを言い出したのか、まるで分からなかった。過去に由真が「村上さんってカッコいいよね〜」と言ってみたり、アタシも「お互いに独り身なんだから行っちゃえ」とけしかけてみたことは確かにある。ただし、それはもちろん冗談のつもりだった。
 今の由真が本気なのかどうかも、アタシには計りかねた。
 由真はさっきからアタシのほうを見ようとせずに、ずっと店内を映し出すモニタに見入っていた。耳には会話を拒絶するようにiPodの白いイヤホンが突っ込まれている。何度か声をかけようとしたが、かけるべき言葉が見つからずに黙り込む。そんなことを繰り返した。
 もし本気だったら、アタシはどうすればいいのだろう。
 村上のことを何とも思っていないと言ってしまった以上、自分が文句を言える立場にないことは間違いない。そもそも文句を言う必要など何処にもなかった。アタシにとって村上恭吾は最も近いところにいながら、絶対に手が届くことはない存在だからだ。
 正直に言えば、村上の部屋を掃除したり身の回りの世話を焼いているときに、擬似的な恋愛感情のようなものを抱かないではなかった。しかし、アタシと彼の間には父の本心を慮ってくれたことへの感謝と、その裏返しである取り返しのつかない後悔が横たわっていた。それは決してアタシのほうからは越えることができない壁だ。
 むしろ村上と由真のほうがお似合いなのかもしれない。彼女の気まぐれでわがままなところも、一回りも歳が離れた大人の男ならうまくいなしていけるだろう。素直に甘えられないくせに甘えたい気持ちを押さえきれないアタシなんかより、ありのままに気持ちを表せる由真のほうがよほど可愛げがあるというものだ。ビジュアル的にも紛うことなき美男美女だ。何処にも文句のつけようがない。
 それでも、本当なら由真への嫉妬心を燃やすべきところなのだろう。しかし、アタシはそうすることすらできなかった。ただ、息苦しいほどの焦燥感だけがアタシの胸を締め付け続けた。

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